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2008年3月23日 (日)

新田次郎の本

藤原正彦さん(同年齢でもあるし、ひょうきんで、親しみやすいお顔から、こう呼ばせてもらう)が尊敬して止まない父君、新田次郎氏の”剣岳〈点の記〉”を読んだ。

微に入り細をうがつ山岳小説で、この一冊にどれだけ多くの資料集めと、実地踏査がなされただろうかと思うと、圧倒され、畏敬の念でいっぱいになる。

明治時代に、北アルプス剣岳の山頂に三角点を埋設するため、初登頂した測量官とそれを手助けした人たちの苦難の物語である。

実在した主人公と案内役の人夫の、人柄とお互いの信頼関係がすばらしい。

日本の山のほとんどは測量隊によって初登頂がなされたとも言われているそうだ。

地味な測量官の仕事に過ぎなかったであろう出来事の一つ一つが、どれだけの苦労と努力の積み重ねの結果であったかを、後の世の人々に知らしめてくれる。

かつて読んだ、氏の”八甲田山死の彷徨”も、息をのむほどの極限状況の中での人間の姿を克明に綴った、気象の専門家でないと書けない、読み応えのある山岳小説だった。

こうして地道に時間をかけて、一冊の小説に精魂込めて取り組む作家の姿そのものが、感動を与えてくれる。

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