「心訳 般若心経」
1年前くらいに、書評を見て、生命学者の柳澤桂子さんの「生きて死ぬ智慧」を注文した。
50頁にも満たない小冊子で、なんだ、これだけのものか、と、さっと見て、棚上げしてしまっていた。
今回、また目に触れたので、改めて読み直してみた。
副題は、「心訳 般若心経」。
「般若心経」の原文に対応してはいるものの、ほとんど、科学者としての著者の独自の解釈である。
この本の一つ一つの言葉が、叡智の極みとも言える。
また、この本の半分は、日本画家の堀文子さんの絵で埋まっている。
この絵がまたすごい。生命・宇宙・空(くう)・彼岸・情念というような観念を絵で表す、卓抜した才能に驚かされてしまう。
柳澤さんは、将来を嘱望される優秀な科学者でありながら、36年間原因不明の難病により、闘病生活を送った。
そして、その病が”周期性嘔吐症”と診断され、抗うつ剤による治療で小康状態を得たところで、今度は”新たに”脳脊髄液減少症”という病で、治療を受けていられる。
気の遠くなるような辛い日常の中で、思索を深められた。
物も人間も、宇宙の原子の濃淡でしかなく、一元的な世界こそが真理であるという。
『宇宙の真実に目覚めた人は、物事に執着するということがなくなり、何事も淡々と受け容れることができるようになります』。
今は物事への執着心でいっぱいの私だが、これから、老いに向き合って生きて行くには、心の片隅に、このような悟りの境地を芽生えさせていくのが、潔い生き方につながるのではないかと思う。
この本を傍らに置いて、親しみたいと思う。
| 固定リンク
最近のコメント