夏目漱石の美術世界展
あいにくの雨だったが、混雑を避けるにはよかったかもしれない。
上野の芸大美術館へ『夏目漱石の美術世界展』を見に行った。
パンフレットに”みてからよむか”とあったが、やはり、読んだ小説を思い出しながら、その場面を彷彿するのがいい。
『草枕』に描かれていたシーンは、この絵のようであったのかとか、『ぼっちゃん』にでてきたターナーの絵は、これだったのかとかの感に入る。
そして、孫の房之介さんが28歳のときに読んで、自身が悩んでいたことと同じ主題を感じ取って、衝撃を受けたという『行人』を、今、私は読んでいる途中だった。
『行人』に出てくるのは、応挙の絵で、”右の端の巌の上に立っている三羽の鶴と、左の隅に翼をひろげて飛んでいる一羽の外は、距離にしたら約2、3間の間ことごとく波で埋まっていた”という変わった絵だった。
私はまだそこまで読んでいなかった。
家に帰って、急ぎその部分まで到達しようと読みふけった。
やっとたどり着いたその部分の描写は、主人公の父が、
「唐紙に貼ってあったのを、剥がして懸物にしたのだね」と言い、”一幅ごとに残っている開け閉ての手摺れの痕と、引き手の取れた部分の白い型を、父は自分に指し示した”
というものだった。
私は、何枚も波だけの絵があって、不思議な絵だなあ、と思っていたが、がってんがいった。
古今東西の絵において、自身が感じたままを批評する漱石の芸術に対する眼は、漱石のまっすぐの気性を表していると思った。自分を偽るのが大嫌いな人だったのだから。
小説と絵を結びつけて一堂に展示した、すばらしい美術展であった。
見終わった後は、友達と精養軒で食事をし、そのままティータイムもそこで過ごした。
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