強引な買い取り
途中までは、普通のリサイクル業者だと信じていた。
その手の電話があったのは、3度目だった。
1度目は中年男性の声で、「いらなくなったバッグはありませんか?」というものだった。
このときは、長々と話したあと「時計などはありませんか?」と言い出したので、あっ、これは貴金属類を無理やり安い値で持っていく、詐欺まがいのやつだ!と直感したので、この時点で「ありません。もう結構です」と断って電話を切った。
2度目は若い女性からで、着なくなった洋服を買い取っている、という電話だった。これは即座に断った。
だが後で、感じのいい話し方だったし、古着の2,3枚だしてもよかったかな、と、私の心が少しだけ動いた。
そして、3度目に、若い女性からの電話のときには、「古着はこちらでまとめてクリーニングするのでそのままでいいです。その場で買い取りしますが、買い取りできないものもあります」などと、手馴れた様子で、会社名、電話番号などを言われ、私の中で疑いの気持ちが無くなってしまっていた。
引き取りに来るという日、指定時間が少し過ぎて、若い男性から「遅くなってすみません。もうすぐ行きますので」と電話があり、5分ぐらい後にやってきた。
どうせならと、衣類3点と、バッグ、食器類も準備していた。
ところが、こういう品にはほとんど眼もくれず、「壊れたネックレスなどはありませんか。イミテーションでもいいです」などと言い出した。
イミテーションでもいいならと、イミテーションのブローチを二つと、ついでにこれももう使わないからいいか、と、金縁のカメオを見せた。
すると、カメオだけに目をつけた。「これは18金ではないですね。10金ぐらいです。この衣類とまとめて1500円で買い取ります」という。
私は「昔、何万円もだして買ったものですから、1500円なんかだと売りません」と言ったら、「じゃあ、何円だと売ってくれるんですか?」と言い出した。
しばらくは売ってくれと迫られたが、このころになると、私も”ただ同然で持っていく、強引な買い取りだと気付いていたので、頑として譲らなかった。
そして、電話に主人がでたので、これ以上強引に出ると、奥から主人が出てくるかもしれないと思ったものか、あきらめて帰った。
古着は口実だった。よく考えれば、古着の数枚のためにわざわざ家に来るというのがそもそも割に合う話ではないのだ。私も教訓を得た。
”家に入れてはだめだ”ということ。一人のときだったら、どんな態度に出られたかしれないと思うとこわい。
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