筆入れと小物入れ
猫は若い頃は、暑くなりかかるとふさふさ柔らかい冬毛から硬くて粗い夏毛へ生え変わるものだが、老齢になるとうまくいかなくなって、この暑さの中でも柔らかい毛を身にまとっている。
そういったところへ、猫はしょっちゅう自分の体をなめているから、いくら毛をすいてやっていても毛を呑み込んでしまって、ときどき毛玉といっしょに食べたものを吐き出す。
それで気をつけていないと、とんだ所へ吐かれてしまうことがある。
私が大切に使っていた革の筆入れに吐かれてしまった。
洗ったら縮んで汚くなってしまった。
それで思いついたのが、おととしロンドンで買って帰った小物入れだった。
これを下半分を切って、ミシンかけし、裏地もそのまま繕ったら、ゆったりした、使い勝手のいいお気に入りの筆入れになった。
それで、小物入れの方は、仕舞ってあった、市の消費者センターからもらったいかにも事務用品入れらしいビニール製のものを引っ張り出して使うことにした。
実はこのビニール製の小物入れには感謝しなくてはいけないのだ。
やはりイギリス行きの始まる成田空港で、最初の集合場所で置き忘れた品物なのだった。
一向にカウンターで出した記憶もなく飛行機に乗って間もなく、旅行会社の添乗員さんが持ってきてくれた。
どういう気が働いたのか、この市の名前入りの小物入れを初めて使った。
置き忘れられたこれを見た添乗員さんは、私ではと気が付いてくれたのだ。
中には旅行で使うポンド紙幣のすべてを入れていた。
しょっぱなから大変困ったことになるところを、この袋が救ってくれたのだった。
だから、私はこれを特別な気持ちで喜んで使わなくてはいけないと思っている。
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